もしも自分が交通事故にあった時、必ず被害者にという訳ではなく加害者になってしまう事もあります。もし加害者になった時に負わなければならない法的責任は3つあり「民事処分」「行政処分」「刑事処分」になります。民事・行政処分は何となく聞き覚えがあるかと思いますが、さて刑事処分って何だったか・・・と思いませんか?
そこで今回は、加害者なってしまった時に負う「刑事処分」とは何か。刑事処分で下される刑罰の種類や、刑事処分を受けるまでの流れについて詳しく解説します。
交通事故の刑事処分とは?
交通事故における刑事処分とは、ズバリ「罰金刑」や「懲役刑」のことをいいます。交通事故で人を死傷させてしまった時は人身事故として扱われ、この時の内容に応じて刑事処分として懲役や罰金が科せられるのです。
ケガ人など全く出ず、公共物や互いの乗っていた車両の損壊のみの場合は物損事故になります。
交通事故の加害者が刑事処分を負わなければいけないのは、人身事故として処理した場合のみです。物損事故として処理された場合は、加害者に対する刑事処分はありません。
※物損事故において、ガードレールや電柱、標識や信号機などを破損させて届け出なかったり、修理代金を払わなかったりしますと訴えられることもあります。
罰金刑と自由刑
交通事故における刑事処分で加害者に対する刑罰は「罰金刑」と「自由刑」の2つがあります。罰金はまあ何となくわかりますが、自由刑とは何でしょうか?
罰金刑とは
文字通りお金で支払う刑罰です。これは強制的に金銭を取り立てる刑罰のことをいいます。
尚、交通違反をして支払うのは反則金と言いますがこれは「行政処分」の管轄になりますので罰金とは似ておりますが少し違います。
罰金刑が確定した場合、罪の重さに応じて「罰金」を支払わなければいけません。支払うお金が無かったり、或いは無視しますと、懲役または労役を課せられます。
自由刑とは?
聞くとなんだか自由に刑罰が決まったりとかゆる~い印象を受けますが、自由刑とは、加害者の自由を大きく制限する刑罰のことで全く逆なんですね。「拘留」「禁固」「懲役」に分かれていて、このことを自由刑と言うそうです。
「拘留」「禁固」「懲役」の違いは?
この3つはいずれにしても牢屋に閉じ込められるというところは一致していますが、中身は少しだけ違います。
拘留とは
1日以上30日未満の期間、刑事施設(監獄とも言います)に拘置するもの。
禁固とは
30日以上、刑事施設に収容されて身柄を拘束されるもので、労働はありません(申し出れば行えます)
一見刑事施設(刑務所)で労働しなくて済むから楽でいいやと思いがちですが、何もしないので差し入れがないと非常に退屈です。刑務所で労働すれば、日当おおよそ4000円は貰えますし、刑務所内でも物品購入が可能ですので大方の禁固受刑者は労役を申し出るそうです。
上の2つは30日を境に多い少ないの違いに思われますが、「禁固」や「懲役」の場合は執行猶予が付きますが、「拘留」は執行猶予が付きません。つまり実刑のみですので、判決が下ればその日数分収監されます。
また拘留されるに等しい罪状は「公然わいせつ罪」「暴行罪」「侮辱罪」の3つになります。
拘留には「勾留」と類似した表現がありますが内容は、全く異なります。「勾留」は刑が確定していない人に対して、裁判が行われるまでの間に一時的に身柄を拘束することをいます。
懲役とは
30日以上刑事施設に収容され、刑務作業を行うもの。
懲役や禁固には、執行猶予がつくこともあります。執行猶予期間を問題なく過ごせた場合、受刑者(加害者)が刑事施設に入る必要はなくなります。ただし微罪でも罪を犯せば即収監されます。
私の友人で交通事故で刑事裁判になり懲役3年執行猶予6年の実刑判決が下りましたが、6年間はかなりキツかったそうで、横断歩道を渡る際の信号無視にならないかや道路横断にも細心の注意を払っていたそうです。そして万引きの容疑がかからないようにレシートは必ずもらうようにしていたそうです。
刑事処分以外にも負わなければ行けない法的責任
交通事故の加害者は、刑事処分の他に、「民事処分」と「行政処分」も受けなければいけません。
一般的に「損害賠償」といわれるものが民事処分となります。交通事故の被害者が負った損害を、金銭で賠償することをいいます。
加害者が被害者に対して支払う損害賠償
- 交通事故の被害者が、出費を余儀なくされた場合の損害に対して支払う「積極損害」
- 交通事故によって、被害者の収入や利益が減ってしまった場合の損害を補償する「消極損害」
- 交通事故で被害者が受けた精神的苦痛を補償する「慰謝料」
この3つを支払わなければならないのです。
違反点数や反則金などの行政処分
こちらは行政法に基づき公安委員会が、運転免許の取り消しや停止、反則金などの処分を下すことです。
行政処分は、過去3年間分の交通違反による違反点数が、一定の点数を超えた場合に科せられます。今年違反していなくても過去2年間に違反していると累積されます。
交通事故の刑事処分~刑罰内容
ここでは、交通事故の刑事処分で加害者に下される刑罰の内容を、詳しく解説していきます。
過失運転致死傷罪
過失運転致死傷罪は、交通事故の加害者が受ける刑事処分として、最も一般的な刑罰です。運転者が自動車の運転に必要な注意を怠ったことによって、人を死傷させてしまった場合に適用されます。以前は「業務上過失致死傷罪」と言われていましたが、法改正され過失運転致死傷罪になりました。
「自動車の運転に必要な注意を怠る」とは具体的に、前方不注意やわき見運転、軽度なスピード違反などがあります。
過失運転致死傷罪の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金刑です。
危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪は、自動車の危険な運転によって人を死傷させた場合に適用されます。
「自動車の危険な運転」とは、具体的に以下のようなものがあります。
- 飲酒運転や薬物使用によって、正常な運転が困難な状態
- 高速運転での信号無視
- 制御困難な高速での運転
などがあり、危険運転致死傷罪での刑罰は、被害者がけがをしたのか死亡したのかで異なります。
被害者が怪我をした場合は、15年以下の有期懲役となり、死亡している場合は、1年以上20年以下の有期懲役が下されます。
過失運転との大きな違いは運転は危険を伴うという前提において「注意を怠った」のか「さらに危険な運転を起こした」という違いがあります。
刑事処分を受ける流れ
刑事処分の内容についてはお分かり頂けたかと思いますが、今度は交通事故発生から刑事処分が下されるまでの流れを見ていきましょう。
1.警察による取り調べ
交通事故発生後は警察が事故現場に来て、事故状況をまとめた実況見分調書が作られます。交通事故当事者それぞれから事情聴取を行いますが人身事故の場合はケガ人が出ていると、その場では聴取できない事もあるため、警察による取り調べでは、警察署に同行を求められ供述調書の作成を行います。供述調書とは、犯罪の疑いをかけられた被疑者の供述を記録した書面であり、供述証拠として使われるものです。もし被害者が死亡した場合は過失運転致死に切り替わり逮捕され手錠をかけられることがあります。
2.検察庁からの呼び出し
実況見分調書や供述調書が検察庁に送られると(送検と言います)検察庁から被疑者に呼び出しがかかります。
検察庁からの呼び出しでは、警察の取り調べが適切なものであったかどうかが確認されます。自身の言い分と違う点や疑問に思う部分があれば、具体的に述べるようにしましょう。
3.検察庁が起訴・不起訴の判断
検察庁での取り調べが終了すると、検察官によって起訴・不起訴の決定がなされます。
起訴とは、検察官が訴えを起こす事で被疑者を裁判にかけるために、裁判所へ申請を行います。また不起訴は、検察官による起訴が行われないことをいいます。
4.裁判を行い判決の言い渡し
裁判が始まると、被疑者から被告人に変わります。月に1回程度のペースで審理が行われ、順調に進んだ場合は約2ヶ月程度終了します。
裁判による審査が終了すると、裁判官から判決の言い渡しが行われ、刑罰の内容が決定します。執行猶予判決では刑務所へ入る必要はありませんが、実刑判決となった場合、加害者は刑務所へ行かなければいけません。また、罰金刑となった場合は、基本的に一括で罰金を支払わなければいけません。
交通事故の被害者は刑事裁判に参加できる?
交通事故の加害者が刑事裁判になったとき、被害者は被害者参加制度を使うことで、裁判に参加することが可能です。
被害者参加制度を利用する流れは以下になります。
- 担当の検察官に被害者参加を希望する旨を伝える。
- 検察官は被害者参加を認めるべきなのかの意見をつけ、裁判所に通知する。
- 裁判所は被告人やその弁護士の意見を踏まえて、被害者の参加を認めるかの判断する。
このような、流れを経て、裁判所から参加を認められると「被害者参加人」として裁判に参加できます。
交通事故の被害者ができる刑事告訴とは?
※ドラマなどで「告訴」という用語が出ますが、検察官が裁判所に訴えるのを「起訴」と言い、被害者や法定代理人や被害者の親族が加害者を訴えるのを「告訴」と言います。
交通事故で刑事裁判を起こすには、加害者を起訴しなければなりません。加害者を起訴できる権限をもっているのは、検察官のみです。
しかし、被害者には刑事告訴をするという手段をとることができます。刑事告訴とは、被害者が加害者を処罰して欲しいと意思表示のことです。刑事告訴できるのは、基本的に被害者本人のみです。
刑事告訴は必ず起訴されるのか?
被害者が刑事告訴をした場合、事情が考慮されて起訴される可能性が高くなりますが、必ず起訴されるというわけではありません。
刑事告訴はあくまで意思表示であり、起訴・不起訴の判断する際に考慮されますが、最終的に起訴の判断をするのは検察官になります。刑事告訴をしても、検察官が不起訴と判断した場合は、不起訴になってしまいます。
交通事故の被害者が刑事告訴する場合、以下の手続きを行うことになります。
- 告訴状の作成
- 証拠の提出
- 告訴状の受理
告訴状の作成
告訴状は、加害者を処罰して欲しいという意思を記した書類になります。したがって告訴状に記載することは「交通事故の発生日時・場所・交通事故の内容・当事者の名前など」になります。
証拠の提出
刑事告訴をする場合、告訴状を受理した後に行う捜査のために必要な証拠を提出しなければなりません。証拠を提出しても、告訴状を受理してもらうことは難しいです。
証拠となる書類は、「交通事故証明書・現場写真・診断書・通院記録・発生した損害の内容など」です。
告訴状の受理
告訴状は受理されてはじめて刑事告訴をしたことにはなります。しかし告訴状を受理されるのは難しく、明確な証拠書類を提出することと、説得力のある告訴状になるようにすることが大切です。
刑事処分を減刑するためのポイント
裁判による審査で、加害者に対する刑罰を減刑するための対策方法
示談を終了させておく
交通事故の刑事処分では、被害者の心情が影響しやすいといわれています。
被害者との示談が成立していて、損害賠償の支払いが終了している場合は、「被害者が受けた損害の補償が完了している」とみなされ、減刑できる可能性があります。
嘆願書の提出を依頼
嘆願書とは、加害者に対して厳しい罰が下ることを望まない被害者が作成する文書です。
被害者が、検察官または裁判所に嘆願書を提出すると、加害者に対する刑罰が減刑できる可能性があります。加害者は誠意をもって事故に対応することで書いてもらえるかもしれません。
今度は交通事故発生から刑事処分が下されるまでの流れを見ていきましょう。
- 警察がどの様に事故が発生し、どのような被害が起きたかを調べます。
- 検察庁に警察が調べた書類が届けられ、間違いが無いか調べます。
- 検察官が刑事事件性の有無を判断をして、起訴するか決定します。
- 起訴ならば裁判へ、不起訴なら釈放となります。
- 一般的には検察官による簡易(略式)裁判で判決が言い渡されます。
- 被害者が死亡した場合などは、正式裁判で判決を受ける事もあります。
裁判までの流れ
交通事故発生後は警察が事故状況をまとめた「実況見分調書」が作られます。
一方的な内容にならない為に、当事者それぞれから聴取を行いますが、ケガ人が出ていると後日聴取することも。
人身事故になりますと加害者は、警察署に同行を求められ「供述調書」の作成を行います。供述調書とは、犯罪の疑いをかけられた被疑者の供述を記録した書面であり、証拠として使われます。実況見分調書と供述調書を検察に送り事件性の判断をしてもらいます。
検察庁からの呼び出し
実況見分調書や供述調書が検察庁に送られると(送検と言います)検察庁から被疑者に呼び出しがかかります。
ここでは警察が調べた内容の事実確認が行われます。
検察庁が起訴・不起訴の判断
検察庁での取り調べが終了すると、検察官によって起訴・不起訴の決定がなされます。
- 起訴とは今回の交通事故において当てはまる刑事罰に対し裁判で決定してもらう手続き
- 不起訴は、検察官が刑事罰に該当するものが無いと判断されたのもので、釈放に
判決の言い渡し
裁判方法は略式裁判と正式裁判の2通りがあります。
略式裁判は、裁判官に代わり検察官が判決を言い渡します。特別重要性を感じない案件で行われます。
正式裁判は、テレビでよく見る光景です。主に重大な案件に対し行われます。
略式裁判でも、きちんとした申し立てがあれば正式裁判に移行して審理を行うことが出来ます。略式裁判でも態度が悪いと、正式裁判に送られ判例に基づいて懲役刑など言い渡されます。侮らず、真摯な態度で臨みましょう。
略式裁判では罰金刑が言い渡されることが多く、正式裁判では懲役などの自由刑が言い渡される事が多いですが執行猶予が付く判決も下される事もあります。
期間は月1回のペースで2~3ヶ月くらいで判決が下されます。また、罰金刑となった場合は、基本的に一括で罰金を支払わなければいけません。
まとめ
この様な流れで刑事罰に向けての手続きが行われます。事故に限らず交通違反においても免許停止処分相当の違反を犯せば、刑事責任を問われ、略式・正式裁判を通し刑事罰が下ります。
この状態の置かれますと非常に精神的に辛くなります。ぜひご注意下さい。
交通事故の加害者が負う刑事処分について、お分かりいただけたでしょうか。
交通事故を起こしてしまいますと相手の車はおろか人に被害が及びます。その様な時はいち早く救護をして警察を呼び事故処理を行い、誠意を持って被害者に対応しましょう。
もしも刑事処分を受けてしまった場合、加害者には前科がついてしまいます。それを恐れて過失を認めようとしないと悪質とみなされ重い刑罰に処せられることも・・・
今後の生活に悪影響が及ぶことを避けるためにも、誠意を持って対応しそれよりも日頃からの安全運転を心がけるようにしましょう。
もし事故を起こされてしまった場合どう対処・対応したらよいかわからない時は、当院までお問い合わせください。