出典:愛知県国民健康保険団体連合会

相手が存在する交通事故での過失割合は、その交通事故に対する責任の割合が大きい方が加害者となります。第三者行為とはこうした交通事故の場合、加害者が被害者に対して傷病を負わせることを呼んでいます。交通事故ではありませんが

◆誰かに殴られてケガをした

◆散歩中の犬に噛みつかれてケガをした

◆スキーやスノーボードで接触による大怪我

◆建築現場からの落下物によるケガ

この場合も「第三者行為」と呼びます。

交通事故でケガを負った被害者は、健康保険を使って治療を受けることができます。
健康保険を使って治療を受けるには「第三者行為による傷病届」を健康保険を取り扱っている保険者に提出する必要があります。今回は

  • 健康保険を使って治療する時に「第三者行為による傷病届」が必要な理由
  • 「第三者行為による傷病届」の必要書類
  • 健康保険を使って通院することのメリット

などについて、詳しく解説していきます

「第三者行為」とは?

冒頭にも書きましたが、交通事故における「第三者」とは、「加害者」のことをいいます。交通事故の加害者(第三者)によって、被害者が負った傷病を「第三者行為による傷病」といいます。

  • 第三者(加害者)との交通事故で受けたケガ。
  • 同乗していた車やバイクが交通事故を起こしたことで受けたケガ。 また死亡してしまっても「第三者行為による傷病」となります。

2.に関しては、第三者(加害者)が親族である場合でもそのように呼びます。

 

第三者行為で通院する際は健康保険が使えます

交通事故でケガを負った被害者は、医療機関での治療費を加害者に対して請求することができます。

  1. 加害者側の自動車損害保険である自賠責や任意保険会社に対して請求する方法
  2. 自分の健康保険を使って費用を立て替えた後、加害者方へ請求

どちらの方法を使用するかは、被害者自身が選択できます。

 

自賠責保険よりも健康保険を使った方が良いメリット

交通事故の被害者が「なんでコッチが健康保険使って安くやらなきゃいけないんだ」とよく耳にする話ですが、以下のような場合は健康保険を使って通院した方が、被害者が有利になることがあります。

  1. 加害者側の保険会社から連絡がこない時
  2. 被害者にも過失割合が認められた時

交通事故が起きたら、加害者側の保険会社と連絡をとる必要があります。なぜなら、交通事故の被害者に対して保険金を支払うのは、基本的に加害者側の保険会社だからです。

加害者側が自身の保険会社へ連絡しますと、後日保険会社の方から被害者に連絡が入ります。しかし、何らかの理由で保険会社から連絡がこない場合はとりあえず被害者自身の健康保険を使って医療機関へ行き、ケガの状態を診てもらった方がよいでしょう。(後で医療費が返還されます)

2.について詳しくは後述しますが、被害者にも過失割合が認められている場合は、健康保険を使って通院した方が良いでしょう。
過失割合とは、当事者(加害者と被害者)双方に認められた責任の割合です。被害者にも過失がある場合は、互いに損害賠償を請求する際に「過失相殺(かしつそうさい)」されます。過失相殺とは、裁判所が被害者の過失割合に応じて、損害賠償額の減額を行うことです。

一見損と思うかもしれませんが、自身の治療費のほか、慰謝料や休業補償など全てに何割かの減額が起こります。その分引かれた残りがいくらになるかを計算してみてください。

 

健康保険を使えないケース

交通事故によるケガの治療をする際、健康保険を使用して通院した方がよい場合もあります。しかし交通事故の状況によっては、健康保険を使用することができない

通勤や業務中に起きた、交通事故や災害でのケガ

この時は労災保険が適用されるからです。

第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

健康保険法,(略)健保法

 

「第三者行為による傷病届」が必要な理由

健康保険を使用して通院するには、被害者自身が健康保険者(健保組合や協会、市町村など)以下「保険者」とします。へ連絡をし、「第三者行為による傷病届」を提出しなければいけません。

 

交通事故の場合は、本来ならば加害者が治療費の負担を行います。しかし、何らかの理由で被害者が健康保険を使用した場合、治療費は被害者と保険者が一時的に負担することとなります。

保険者は、一時的に立て替えた治療費を、後に加害者側の保険会社へ請求します。
保険者がこの治療費を請求する際に、「第三者行為による傷病届」が必要となるのです。

 

「第三者行為による傷病届」手続きに必要な書類

被害者は、「第三者行為による傷病届」に必要な書類に記入を行い、保険者へ送ります。

  • 交通事故、自損事故、第三者(他人)等の行為による傷病(事故)届
  • 負傷原因報告書
  • 事故発生状況報告書
  • 念書
  • 損害賠償金納付確約
  • 同意書
  • 交通事故証明書の添付を忘れずに!

交通事故証明書とは、交通事故が起きたという事実を証明するための書類です。警察署で交通事故証明書の交付申請手続きをすると、交通事故安全センターから被害者に送られてきます。

 

健康保険を使うことのメリットとその理由

健康保険を使うと、保険負担の割合を被害者が負担することとなります。
一時的に負担金が生じることで「加害者側の保険会社に請求できるんだから、健康保険を使わなくてもいいんじゃないの?」と考える方もいるかと思います。しかし、最初から加害者側の保険会社に対して請求するよりも、健康保険を使って通院する方が、被害者のメリットになる場合があります。

自賠責保険の有効利用ができる

まず、医療機関で出来る診療は大きく分けると

  • 保険診療
  • 自由診療

に分かれます。

健康保険の適用範囲内の治療を保険診療と言い、被害者が一時負担する金額は治療費の3割となっています。残りの7割は保険者によって医療機関へ支払いが行われます。

自由診療では治療費についての制限がなく、被害者の全額負担となります。ただし、交通事故の場合の治療費の負担は、加害者側の保険会社が行います。

治療費の請求は、まず加害者側の自賠責保険に対して請求し、自賠責保険の限度額を超えた場合は、任意保険に対して請求します。自賠責保険の限度額は120万円となっています。

自由診療では、健康保険治療では認められていない治療法で治療費も独自でを決めることができるため、診療報酬が高額になる可能性があります。

また120万円では思いのほか重傷で休業を余儀なくされた場合、治療費分で終わってしまう事も有ります。もし加害者が任意保険に加入していなく、さらに加害者本人にも支払い能力を超えてしまっている場合、自賠責保険で補えなかった不足分を被害者が負担しなければいけなくなることがあります。

 

過失相殺による被害者の負担額が減る

例を挙げてみてみましょう。過失割合が7:3で被害者が3割の場合

総損害額から3割が減額されます。更に支払い済みの治療費を引いて、被害者が受け取る金額になります。

自賠責保険 健康保険
治療費 300万円 45万円
その他損害 300万円 300万円
総損害額 600万円 345万円
3割金額 180万円 103万5千円
総損害額-3割

(過失相殺)

420万円 241万5千円
治療費を引いた総額

(受取金額)

120万円 196万5千円

被害者が最終的に受け取る金額は、自賠責保険を利用した場合は120万円、健康保険を利用した場合は196万5千円となります。

 

同じく過失割合が6:4で被害者が4割の場合。

同じように被害者側の過失割合が4割が減額されて被害者の受け取り分となります。

自賠責保険 健康保険
治療費 300万円 45万円
その他損害 300万円 300万円
総損害額 600万円 345万円
4割金額 240万円 138万円
総損害額-4割

(過失相殺)

360万円 207万円
治療費を引いた総額

(受取金額)

60万円 162万円

被害者が最終的に受け取る金額は、自賠責保険を利用した場合は60万円、健康保険を利用した場合は162万円となります。

その他損害は慰謝料や治療で余儀なく支払った交通費などです。

 

このように、健康保険を利用した場合には、泣き寝入りしなければならなかった休業補償や慰謝料が支払われるという事です。

交通事故では、損害賠償金額の総額にばかり目が行きがちですが、実は過失割合が大きな問題になる事も忘れてはいけません。

また、健康保険を使えば必ずこの金額がもらえるわけではありません。専門的知識のある弁護士や交通事故を取り扱っている整骨院などが頼りになります。

 

まとめ

交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償を請求することができます。ケガの治療をする際は、加害者側の保険会社に請求するか、被害者自身の健康保険を使うかを選ぶことができます。

健康保険を使うと、被害者に対して一時負担金が生じますが、後から加害者側の保険会社に請求することができます。また、初めから加害者側の保険会社に対して請求するよりも、健康保険を使った方が被害者にとってメリットになる場合もあります。

健康保険では、被害者の一時負担割合は通常3割となっていますので診療報酬を120万円以内に抑えることができる場合もあります。診療報酬が抑えられる分、120万円の枠内が広がりますので、治療費以外の損害を補うことに使うことができるのです。

いかがでしょうか。
もしも第三者行為にすれば良いのか、ご不明点が御座いましたらお気軽にご相談下さい。