私の祖父は、肺癌・扁平上皮癌・大動脈瘤・鼡径ヘルニアなどの疾患があるにも関わらず、86歳まで生きました。

定休日に実家に帰り、祖父にマッサージをしてあげると大変喜びますが、お互い涙ぐんでしまいます。病気の進行を止めることはできませんが、一時の安らぎと薬の副作用を抑えることができます。

ここまでの経緯はこちら

祖父は八戸市八幡字上樋田さくら病院に入院し最後を迎えましたが、ここは素晴らしい医者・スタッフの対応だったと母が感謝していました。田舎にもこんなに素晴らしい病院ができたのだと実感し、日々変わりゆく故郷を改めて感じます。

末期ガンに対する治療はあるのか?

これは現代の医療では完全には治すことはできません。

早期発見で切除・薬物療法・放射線治療などで治すことはできますが末期となると難しいです。進行性の癌では、速度を遅くすることはできても完治にはなりません。この間、患者は身体的激痛・精神的苦痛に耐えねばなりません。祖父も胸の辺りが苦しいと訴えていました。

この『痛み』を和らげる方法を『緩和ケア』と言います。
トータルペインを考慮し、様々な治療法で改善させますが、祖父の場合は高齢=寿命だったのでQOLを尊重し延命治療はせずに痛み止めのみの治療となりました。

祖父の具合を診て、自分ができることは?

私がこの職業になれたのも祖父がいてこそです。一時の安らぎならば孫の手で与えられるのではと思い、担当の看護師さんに了解を得て仰向けのまま、身体全体のマッサージを行います。
一般的には、癌にマッサージは禁忌とされています。進行が早まる恐れ、血流改善により痛みの増幅、神経過敏・・・ですが、病理学・腫瘍学・臨床経験があれば可能です。最近では緩和するためにマッサージを行う病院も増えてきました。

私にできることは、
①祖父の訴えている手足のむくみを改善
②手足の冷えの改善
③足の感覚が無くなり、立ち上がりが困難になりつつあるので、太ももの筋肉を活性させる
④箸を持てなくなる(力が入らない・震える)を持てるように
⑤耳が遠くなる(テレビの音が聞こえない)ので側頭部をほぐす

一時しのぎかもしれません。
私が帰った次の日には元に戻っているかもしれませんが、ほんのひと時でも痛みが和らげればと思い四肢の施術に入ります。

肺癌、腹部大動脈瘤を考慮しながらマッサージ方法

末期ガンのマッサージ

1、仰向けの状態(寝返り困難のため)
2、手足の体温・感覚を確認し、なるべく冷やさない様に毛布とタオルを上手に使う(身体を動かす時に、少しでも身体が露出してしまうと寒気に襲われるため)
3、褥瘡が臀部にできていないか、長時間同一姿勢でも大丈夫か、喉が渇いていないか、尿意の有無をその都度確認

祖父の意識ははっきりしている為、会話が成立しましたが、薬が聞いていると頭がボーっとし倦怠感に陥ります。同じ強さで押しても体調によって痛がったりするので、常に顔色を見ながらになります。

手~腕~肩周り~少しの運動

①手のマッサージ→手掌から、指先、爪の先端まで優しくさする。
特に指の横腹を何度もさすると、体温が上がります
②手のグーパー→軽くこぶしを作り握る、開いてパーでゆっくり伸ばす。指と指の間に交錯する様に
③腕~上腕のマッサージ→親指で軽くなぞる様に、両手でギュッと握り締める
④肩周りをさすり、両手で全面・背面をつかみ10回ずつ前後に回す→リンパの流れを良くする為

※可能であれば軽めのバンザイや、腕を引っ張りながら回してあげるのも◎

ここまで10分×2

左右マッサージしたら、下半身に移ります。

受ける側の体力消耗が激しいので、飲み物・食べ物が欲しくないか、トイレは大丈夫か、寒気・のぼせる感覚がないかをチェックします。

足~スネ~太もも~ストレッチ~足首・膝運動

膝裏にタオルを丸めて、軽く膝が曲がっている状態を作ります。太ももを上から圧迫するときに、軽く曲がっていた方がストレスを感じにくく心地よくマッサージを受けることができる為。

⑤太ももを膝上からさする→求心性と言いますが、足の血液を身体の中心に流し込むイメージです
⑥スネも足首から上に向かってさする→三里というツボがありますが、寝たきりだと弱めの指圧でも内出血を起こしやすい為、ひたすらさすります
⑦足の甲~指先・足裏までのマッサージ→ふくらはぎよりも指先に浮腫が集中してしまうので、ここは強めに押します
⑧足の指を動かす→アキレス腱を伸ばす→足首を回す
⑨ふくらはぎ~膝裏マッサージ→そのまま両手で下から足を持ち上げ、膝関節を曲げたり伸ばしたり×10回
⑩そのまま股関節を動かすように横に小円を描くように内・外回り×10回

左右10分×2

胸周り~お腹周りをさする

四肢のマッサージを終えたら、最後に胸周りを円を描くように優しくさすります。

この際、皮膚に触れるか触れないか程度の弱めでさすり皮膚表面の血流を促進させます。
祖父は肺癌の為、胸が刺された様に痛む・苦しいと訴えていました。さすってあげると『つっかえ』が取れるようで、呼吸も楽になっていました。コツとしては肩側(心臓の遠い所)から中心に向かってあげると良いです。
大動脈瘤の影響で、お腹の張り・痛みが出るので、おへそから時計回りでグルグルなぞるようにさすります。

胸+お腹=5分×2

抗がん剤・モルヒネ等による頭痛・散漫感を散らすマッサージ

首~後頭部~頭頂~側頭部をマッサージします。
いわゆる『ヘッドスパ』ですが、弱めでも特に効果が高かったです。祖父は頭のマッサージ等一度も経験が無かったみたいですが、やってあげると『しゃべりやすくなる』そうです。

末期ガンのマッサージ2

効果はひと時だけども・・・

祖父の身体にマッサージは、完治はしません。『その場しのぎ』かもしれません。私の自己満足・エゴかもしれません。
姉達が看病し、数時間しか一緒にいれない状況で、ほんの少しだけ心地いい時間を持たせてあげたく、マッサージを行ってみました。もう身体を起き上がらせることも叶わなかった祖父ですが、最後に握手ができて、込み上がるものが感じました。

お見舞いに行く家族の人達が、何とか楽にできることは無いか、苦しまないで逝くことはできないかと考えると思います。私はこの業界に入って、この日のために全てを学んできたんじゃないかと思います。

神様仏様に反逆する訳ではないですが、苦しまない→楽にさせる→寿命を少しでも伸ばしてあげたいにぶち当たります。もしかしたら回復するんじゃないか、ご飯も食べれるようになるんじゃないか、治ってしまうんじゃないか。実際は余命を告げられて、段々と衰えた身体をひと時だけ気持ちよくしただけです。このひと時を味わせてあげたかった。

川崎のお医者様から、『もって3ヶ月、いつ破裂してもおかしくない』と言われてから6ヶ月が経過し、7月に静かに逝きました。
天国でも田んぼ仕事をしているんだろうな、美味しいひとめぼれを作ってて欲しい。おばあちゃんと元気にね